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しょくじとよだれ。

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ランチのおいしい食べ方

余裕があるようでない誘い受オヤジを書きたかったのに誘ってるところが見えな…(きょろきょろ)



「こんちはー」
「こんにちは。今日は暖かいね」
「そうですねーやっと春って感じですね」 

歩道に連なる桜が散り始め、地面に薄ピンクの斑絨毯をつくる。
その道を歩き敷地内に入ると、店の前の邪魔な桜を掃く店員に、にこりと可愛い顔で挨拶をされる。
私の密かな楽しみだ。 


会社から歩いて10分弱のところに、私の行きつけのコンビニがある。
38になった私には、弁当を作ってくれる妻はいない。
というか、同性愛者なので女性に恋愛感情を抱いたことがないから、いなくて当然なのだけれど。
少し前は料理上手の恋人がいたので買う必要がなかったのだが、半年前に別れてしまい、それからはコンビニ弁当にお世話になるようになった。
この辺りは高層ビルが建ち並ぶ中心部だ。
コンビニなんて会社から歩いて数分もしないところにいくらでもある。
しかしその近いところよりも10分も歩いてまでここに来るのは、一番品数が豊富で、季節ごとにフェスタをしているから。 
…というのは建て前で、本当は今の店員さんと些細な会話を交わすために来ている。 
その店員さんというのが、薄茶色に染められた無造作に作られた髪。耳には何個かのピアス。ズボンはわざとなのかところどころ破れていて、それを腰でだらしなく履いているという、なんとも私たちの年代では理解しがたい格好をしている。
当然最初の見た目は最悪で、きっと接客も最悪なんだろうと思い、なるべく関わらないように、彼を避けてコンビニに入ろうとしたりもした。
しかしさっきみたいな愛らしい笑顔で出迎えてくれ、その印象はすぐに打ち砕かれた。
話してみればとても礼儀正しく、親しみやすい青年で、それはもう、恋に陥ったと言うべきか。
それからは毎日のように顔を出し、仕事の邪魔にならない程度に世間話もするようになった。

 「永田くんは今年で就職だっけ?」 

彼はこんな形をしていてもちゃんと目標を持っている。
医療もまならない貧しい村の人々に、無償で治療をするために海外を飛び回る医者になりたいと言っていた。
この落ち着きのなさそうな見た目で大学4年だというのにも驚いたが、不真面目そうな見た目に反して、しっかりとした目標を持っていることの方が驚いたのを覚えている。 

「いえ、まだまだ勉強したいことがたくさんあるんで大学に残ります」
「院生かー。熱心だね」 

そう言うと、彼は照れて「そんなことないです」と言った。

 「でも今年も授業料払わないといけないって思うと大変じゃない?」
「大変ですけど、自分で決めたことなんで頑張るしかないですよ。それに、この生活にだいぶ慣れてきて楽しいですよ」 

彼は授業料を自分で払っていると言っていたのだが、本当にそれは苦には思っていないらしく、彼の表情は楽しそうだ。 
…なんとも謙虚な青年だ。今時の若者にしては珍しい。

 「そっかそっか。なら今年もこのコンビににいるんだね」
「そうですね。学校からも近いし吉永さんとも仲良くなったし、卒業するまでは辞める気はないですね」
「それは嬉しい言葉を聞かせてもらった」 

ただの社交辞令だと分かっていても、心臓が今にでも壊れてしまうくらい高鳴る。
それでも平然を装えるのが大人の余裕。

「さてと、働き始めて5年目になる永田くん、今日は新商品があったりするのかな?」 

私は新商品や期間限定というものに目がない。
この春始まりの季節、コンビニにはそういったものがたくさん並ぶ。
それを知っている彼は私のために前もって調べてくれていたらしい。

 「今日は新しく入荷したものがたくさんありますよ」 

微笑んで、少し自信あり気に言う彼に促され、私は店内に入る。
手作り弁当には劣るコンビニ弁当も、好きな人に温められ手渡されるだけで、手作りと似たものになるのだと最近知った。
私は、彼との笑顔と会話と、彼に温められた弁当を買いに、明日もここに足を運ぶのだ。
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