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しょくじとよだれ。

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僕らの賭けをしよう

森に迷った青年がおっさんの妖怪に惚れてキツネなのでおっぽとか敏感なんだろうな…
って考えて書き始めたはずなのにあれ…どこで間違えたんだろ…
森に迷ったところしか合ってない   ヨ…



「やあ、こんにちは」

声がした。
見渡す限り木だらけの、決して人が踏み入ることのない、深い森の中で。
風に乗って、葉の擦れ合う音と共に聞こえたそれは、心地のいい声だった。

「こんな森の奥まで何しにきたんだ?」

どこから聞こえるのかは分からない。
全身で感じる声。
…不思議な声だ。

「さあ…何をしに来たんだっけ…忘れた」

どこにいるのか分らない誰かに、ぽつりと呟く。

「変なヤツ」
「君に言われたくないな」

「あなた」と言うには若すぎる声、「君」がしっくりくると思った。
声を聞くからに、私より若そうな声色だし。
見えない人に話し掛けるというのは不思議な気分だったが、嫌ではなかった。

「なら、何故ずっとここに座ってるの?」

直接脳に響いていた声が、ふと耳から聞こえた。

「…ここが、不思議な場所だから、かな。見たことのない場所なのに、昔から知っている気がするんだ。とても、懐かしい」

声の主は、私の右に座っていた。
思っていたよりも年はいっているようだが、私よりは若いな…。
隣りにいることよりも、見た目の割に声が若いのに驚いた。

「だってここは――――だから」
「…?ごめん、うまく聞き取れなかった」
「だから、ここは―――だよ」

言葉を遮るように、ノイズが邪魔をする。
顔をしかめると、くくっ、と声を殺すように笑った。

「そっかーあんた聞こえないか」
「?」
「よかった。あんたを連れてくのは乗り気じゃなかったんだよね」
「連れてくってどこに…」
「ナイショ」

触れるだけのキス。
驚きはしなかった。
ただ、人差し指を、端の上がった唇に当てて喋る彼を、美しいと思った。
切れ長の目は、吸い込まれてしまいそうな綺麗な黒い瞳をしていて、それを強調するようにすっと通る鼻筋は日本人にしたら高くて。
風が吹くたび少し色の抜けた髪がなびくのが、絵になるのではないかと思った。

「キスのお礼に教えてあげてもいいんだけど、どうせ聞こえないしね。次に会った時にでも教えてあげるよ」
「…またここに来れば、君に会えるのかな?」
「さあ…どうだろうね。あんたが忘れなけれりゃ会えるかもね」

へらりと笑われ、からかわれている気がして、ムッとする。

「忘れないよ。あいにく、まだ物覚えはいい方なんでね」
「なら賭けをしようか」
「…賭け?」

この男は私が理解できないことばかりを言う。
…そういえばさっきから質問をしてばかりだ。

「あんたが目を閉じて、少し経ったらゆっくり開ける。その時に俺を覚えてたなら、さっきの続きをしよう」
「っ…そこまでは、言っていないだろう」

顔が熱くなるのが分かる。
こんなクサイ言葉も、彼が口にすれば違和感がないのだからくやしい。
これ以上彼に遊ばれまいと目を閉じる。
彼が私の顔を見てどう思っているかなんて考えたら負けだ、と無意味な対抗心を燃やす。
しかしそれも、いままで彼の声しか捉えなかった耳に、木々の囁く音が入ってきて、どうでもよくなった。
それはとても心地よく、虚ろな意識の中で空気にも味があるのか…と考え、
意識が飛んだ。



「和木さん、目が覚めましたか!先生呼んできますね!」

どれくらい経っただろう。
沈んでいた意識は、ベットの上で戻った。
目を開くと、真っ白な天井が見えた。
ちょうど点滴を取り換えに来ていた看護婦が私が目を開けたのを見て、言うなり病室を出ていった。
あぁ…そうだ。
会社の帰り道に、引かれたんだ。
残業続きでへとへとで信号を見てなくて。
突然のクラクションにそっちを振り向いた時には目の前が真っ白だった。
ズキズキする体に顔を顰めると、枕元から声がした。

「和木さん、覚えていますか?」

言葉をかみ締めるように発せられた声は、あの時、森で聞いた声に似ていた。
眉をしかめ、真っ直ぐ向けられる瞳は、綺麗な、澄んだ黒い瞳をしていて、私を捕らえて放さない。

「あぁ、覚えているよ。なんたって私は物覚えがいいからね」

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